言語変化・変異研究ユニット Language Change and Language Variation Research Unit

ワークショッププログラム03

東北大学大学院情報科学研究科「言語変化・変異研究ユニット」主催
第3回ワークショップ

「内省判断では得られない言語変化・変異の事実と言語理論」

2016年9月7日(水)〜9月8日(木)
会場:東北大学大学院情報科学研究科棟 2階 中講義室

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9月7日(水)

  • 趣旨説明(小川芳樹):13:00〜13:10
  • Session 1:13:10〜13:55

    小川芳樹(東北大学大学院情報科学研究科)
    「属格主語を含む関係節・形式名詞節の通時的な状態化と語彙化について」

    • 「が/の」交替の統語的認可については、D分析 (Miyagawa (1993, 2011)、C分析 (Watanabe (1996), Hiraiwa (2002))、weak v+依存テンス分析 (Miyagawa (2013))など諸説があるが、いずれも、共時的文法についての仮説であり、「が/の」交替の生起環境の通時的変化を説明できない。
       本発表では、小菅&小川 (2015)の名詞化辞n (nominalizer)分析を発展させ、(1)〜(3)を提案する。
       (1)  属格主語は、機能範疇n (≠ D)と併合する句内で認可される。
       (2) nは、それと併合した形態素または句を名詞化する。
       (3) 範疇選択の指定をもつD, C, T, vと異なり、nは、任意の範疇と併合できるが、
         どの範疇と併合し得るかの特性は、通時的に変化し得る。
      具体的には、nは、その補部にCP, TP、vP、VP/APいずれとも併合できる段階(1900〜40年代)、TP、vP、VP/APと併合できる段階 (1950〜70年代)、vPとVP/APのみと併合できる段階(1980〜90年代)、基本的にVP/APのみと併合できる段階(2000〜2010年代)を経て、属格主語を含む述部を漸次的に語彙化しつつある、と主張する。
       この主張は、1900年代から2010年代までの110年間に出版された約5000ページ分の文学作品から集めた主語付き関係節と形式名詞節の実例約7000例の分析から得られた以下の特徴を説明する。(A) 主語付き名詞節全体に占める属格主語名詞節の割合の単調減少、(B) 属格主語を選択する述部の状態述部化、(C) 属格主語と述語の間に副詞や目的語が介在する割合の増減、(D) コピュラ文が属格主語を取る事例の出現と衰退、(E) 属格主語を許す形式名詞節の多様性と頻度の減少。

  • Session 2: 13:55〜14:40

    柴崎礼士郎(明治大学)
    「アメリカ英語における文末引用構文の発達について」

    •  近年, 引用あるいは話法に関する研究が改めて注目を集めている。英語関連ではBarbieri (2005), Rickford et al. (2007), Buchstaller et al. (2010), Brinton (2015), 更に言語類型論でもPlank (2005)やBuchstaller & van Alphen (2012)のような包括的研究成果も報告されている。研究の中心は発話動詞および感嘆詞と直接引用との関係を考察するものが多く, 英語研究の場合be like, go, say, allと後続する直接引用に関する研究が大半である。
       本研究では(1)に見るis all構文の史的発達を分析する。安藤(2005)と藤井(2006)が, 「定形文+that is all」という独立文の連続使用の融合を示唆している点を除けば, 本構文に正面から取り組む研究は皆無と思われる。
         (1) “Oh, sorry. Happy to see you, is all.” (2005 COCA: FIC, Improbable Times)
       コーパスに基づく調査結果は以下の通りである。統語的には, 18世紀初頭頃に「定形文+that is all」の連続生起が徐々に頻度を増し始める。その過程で, 指示代名詞のthatが徐々に非制限用法の関係詞(that, which)へと置き換えられ, 20世紀初頭には(1)のような関係詞無しの破格構文として使用されるに至る。意味的・文体的特徴は, 時代が下がるにつれて直接引用と判断可能な先行節(引用実詞)を受けるが, 引用符の無い場合が殆どである点である。
       言語研究における書き言葉偏重(written language bias)という指摘もある(e.g. Linell 2005)。一方, 本稿で取り上げるis all構文はCOCAで確認する限り圧倒的に小説ジャンルで使用されており, 1980年代後半のアメリカ口語を記録したSanta Barbara Corpus of Spoken American Englishでも用例が確認できない。現代アメリカ英語における口語と文語の乖離は以下のように説明できると思われる。20世紀初頭に一部の口語アメリカ英語として発達したis all構文が, 20世紀初頭から半ばにかけてE.M. ヘミングウェイやJ.D.サリンジャーの作品として世に広められ, その後, 口語として衰退する一方で, 文語としての使用は持続している。

  • Session 3: 14:40〜15:25

    田中智之(名古屋大学)
    「英語史における不定詞節の構造と否定辞の分布」

    •  現代英語において不定詞節を否定する場合、否定辞notが不定詞標識toの前に現れる語順(not-to-V語順)が普通であるが、notがtoと動詞の間に現れる語順(to-not-V語順)も可能である(cf. John wants {not to / to not} go.) 。一方、不定詞節における否定辞の分布を扱った通時的研究は数少なく、その歴史的発達の全体像は必ずしも明らかではない。本発表では、歴史コーパスを用いて不定詞節における否定辞の分布を調査し、その調査結果を不定詞節の構造変化と関連付けて説明することを目的とする。まず、後期中英語に機能範疇TとCが導入され、不定詞節が節構造を持つようになった結果、不定詞標識toの併合位置としてTとCが利用可能になったことを提案する。そして、この構造変化の下、初期中英語までは不定詞節全体に付加されていた構成素否定のnotが、NegP指定部を占める文否定のnotへと再分析され、not-to-V語順に加えて、to-not-V語順、およびnotがtoと動詞に後続する語順(to-V-not語順)が出現したと主張する。その後、to-V-not語順は初期近代英語に消失するが、動詞移動の消失と補文標識forの出現に関連付けて説明する。また、時間の余裕があれば、他の非定形節における否定辞の分布の歴史的発達についても考察してみたい。

  • 休憩: 15:25〜15:40
  • Session 4: 15:40〜16:25

    柳朋宏(中部大学)
    「古英語の副詞節における主節現象と目的語移動」

    •  現代英語においては、倒置のような主節現象がある種の副詞節中で観察されることが従来より指摘されている (Hooper and Thompson (1973), Haegeman (2002, 2012) など参照)。Haegeman は一連の研究の中で、主節現象が容認される副詞節を「周辺的副詞節」と呼び、容認されない副詞節である「中心的副詞節」と区別している。また Frey (2012) は、現代ドイツ語における周辺的副詞節と中心的副詞節とにおける主節現象の有無について論じている。さらに、それぞれの副詞節における法不変化詞 (modal particle) の利用可能性についても分析し、法不変化詞は周辺的副詞節でのみ用いられると結論づけている。
       古英語においても、ある種の従属節では動詞第2位現象のような主節現象が観察されることが Kemenade (1997) や Ohkado (2002) などで指摘されている。本発表では、従来の分析を踏まえ、古英語コーパスの YCOE から抽出したデータに基づき、古英語における従属節中の主節現象について論じる。具体的には、主節現象が観察される副詞節と観察されない副詞節における談話標識(法不変化詞)の生起可能性と目的語移動の利用可能性について分析し、現代英語や現代ドイツ語における中心的・周辺的副詞節との共通点・相違点を指摘する。

  • Session 5: 16:25〜17:10

    堀田隆一(慶應義塾大学)
    「AB言語写本テキストに垣間みられる初期中英語写字生の形態感覚」

    •  本発表では、13世紀前半にイングランド南西中部方言で書写された、比較的一様な綴字や言語特徴を示す写本テキスト群に表わされる「AB言語」に焦点を当て、そのパラレル・エディションを利用して句読法、綴字、および音韻形態論上の変異を明らかにすることを目的とする。とりわけ注目するのは、写本上に確認される形態素間の空白の量である。現代英語の標準的な書き言葉では、形態素間の境や語間の境は、概ね規範的一貫性をもって空白、無空白、ハイフンなどにより表わされるが、中世写本においては、個々の写字生に特有の、現代とは異なる「形態論的感覚」が微妙な空白取りにより表わされている。例えば、R写本の Sawles Warde には、形態論的には接頭辞と基体からなる1語とみなされる単位が un_witnesse のように接頭辞の後に若干の空白をもって綴られているような例が多く、一方で統語的に前置詞 in と冠詞 the の2語からなるとみなされる単位が iþe と離さずに綴られている例がみられる。これらの事例の分布を写本別に調査することにより、当時の「形態感覚」の部分的復元を試みたい。また、この調査を通じて、言語において語とは何かという積年の理論的な問題にも新たな光を投げかけたい。

  • Session 6: 17:15〜18:25

    竝木崇康(聖徳大学)(招聘)
    「語形成における例外的現象と言語変化―英語と日本語の複合語を中心に―」

    •  私が今までに行なってきた英語と日本語の語形成(派生形態論)の研究の中で、自分自身で特に興味を持って取り組んできた次の4つのトピックについて、短時間ずつではあるが取り上げたい。
       (1)「複合語の主要部」と「複合語の副主要部 (subhead)」という概念に関するもの。特に後者は私の造語であり、たとえば次のような表現に見られる複合語の第1要素とその補部となる前置詞句等と関わるものである。(なお前者に関しては Namiki 2001参照)
         a. a guidebook to modern linguistics (竝木1985, pp. 151-152, Namiki 1994, p. 277)
         a’. a guide to modern linguistics
         a”. *a book to modern linguistics
       (2)単語の主要部の概念と関わる和製英語表現に関するもの。特に「リンスインシャンプー」という表現やそれと同様の N1 in N2 というパタンを持つものについて論じる。これらは日本語の語形成において興味深い特性(主要部の位置、一見すると3つの要素からなっているがbinary branchingの構造を持つ点、機能範疇である前置詞を取り込んでいる点等)を持っており、社会言語学との接点をも持つと思われる。(Namiki 2003, 竝木 2005)
       (3)「〜放題」に関するもの。「〜放題」という表現は現代では派生語とされることが多いようである。しかし16〜17世紀には「放題」は独立語として使われ、しかも別々の意味と発音を持っている2つの単語だったが、その後1つの単語に融合し、意味も片方のものだけになったことを示すとともに、現代日本語の小規模なコーパス等に基づき、「〜放題」という表現は今でも複合語と考えられる側面を持つと論じる。(Namiki 2010)
       (4)「脱文法化 (degrammaticalization)」に関するもので、英語の mini, retro, ex, ism, ologyの例や日本語の「〜めかす」から「めかす」への変化について述べる。(竝木 2015, Namiki and Kageyama (2016))

9月8日(木)

  • Session 1: 10:15〜11:00

    長野明子(東北大学大学院情報科学研究科)
    「英語の派生接頭辞a-の生産性の変化について」

    •  派生接辞は多くの場合、類を成す。同じ類の属する接辞同士は競合し、その関係が個々の接辞の生産性を左右する (Aronoff 1976, Plag 1999, Bauer 2000)。本発表で扱う英語の接頭辞a-は、このどちらの点でもユニークである。第一に、類をなさない派生接辞である。接頭辞としては範疇を変えるという点で独特であり、一方、形容詞を派生する接尾辞と比較しても同類とはいいがたい。第二に、にも関わらず、つまり形態的システム中では明確な競合相手はいないにも関わらず、a-は近代英語期において独自の生産性の変化を示す。まず初期近代英語期に基体として動詞を選択するようになり(それ以前は名詞か形容詞)、後期近代英語期には、一時期、生産性が急激に上昇した(のち、20世紀に急降下)。本発表では、Nagano (2016) を土台に、a-の生産性の変化についてOEDおよびLiterature Onlineからのデータを用いて観察し、韻文のための語形成という仮説を提案する。

  • Session 2: 11:00〜11:45

    南部智史(日本学術振興会特別研究員PD/津田塾大学)
    「「が/の」交替の90年間の動向とその変化の要因」

    •  現代日本語における従属節内の主語表示「の」の使用には様々な統語的制約があり(e.g. Harada1971、井上1976)、その使用は減少傾向にあるという共時的言語変化も観察されている(南部 2007)。また、歴史言語学では、助詞「が」と「の」は上代以降、機能の相補分布に向かって変化していることが指摘されている(Frellesvig 2010)。
       本研究では、現代日本語における「の」主語使用の減少を助詞「が」と「の」の歴史的変遷という観点から捉え、その相補分布に向かった長期的な変化の一部を担っていると考える。ここでは現代日本語研究と歴史的研究の間にあたる、大正〜昭和前期の「が/の」交替の状況を定量的・定性的に調査し、「の」主語減少という変化に関わる要因について考察した。
       本研究のデータには、大正・昭和前期の講演・演説等の発話音声が約18.5 時間録音されているSP 盤レコード「岡田コレクション」の文字化資料(漢字仮名混じり約40 万字)(相澤・金澤 2016)を用いた。分析の結果、江戸期から現代につながる変化の進行過程が定量的に明らかとなり、変化を推進する一因に関しても、動詞の明示的連体形など「の」使用環境の消失が示唆された。

  • 昼食休憩: 11:45〜13:00
  • Session 3: 13:00〜13:45

    縄田裕幸(島根大学)
    「動詞移動は何によって駆動されるか:英語史における残留動詞移動現象からの考察」

    •  英語は初期近代英語において定形動詞が否定辞・副詞に先行する動詞移動タイプの言語から、定形動詞がこれらの要素に後続する接辞下降タイプの言語へと変化したと考えられている。しかし、後期近代英語になってもknow, believe, care, doubtなどの一部の動詞は動詞移動の消失に抵抗し、否定文においてnotの前に置かれることがしばしばあったことが知られている。このような残留動詞移動現象は動詞移動の有無をUGのパラメタとして扱う接近法にとって一見したところ問題となる現象である。ある言語における動詞複合体形成の方法がもっぱら屈折辞として具現化される機能範疇によって決定されるとすると、その影響は屈折辞と融合するすべての動詞に及ぶはずであり、特定の語彙項目を選択的に動詞移動の対象とすることは原理的に不可能だからである。そこで、本発表では後期近代英語のタグ付きコーパスの調査から残留動詞移動の実態を記述するとともに、上述の問題に対する解決策を提示することを試みる。具体的には、動詞移動には豊かな屈折辞によって駆動されるものと否定接辞によって駆動されるものの二種類があるとする縄田(2016)の提案を発展させ、その理論的な帰結について考察する。

  • Session 4: 13:45〜14:30

    小菅智也(秋田工業高等専門学校)
    「日本語複合動詞「V+合う」の通時的統語論:「お互い」の格標示をめぐって」

    •  本発表では、日本語の「V+合う」形式複合動詞の統語構造について論じる。当該形式の統語構造については、全体を語彙的複合語とみなす立場と、統語亭複合語とみなす立場が存在し、Ishii (1989), Nishigauchi (1992), 由本(2005) 等で様々に論じられてきた。
       本発表ではまず、「太郎と次郎がお互い{を/に}なぐり合った」のような、相互代名詞「お互い」と複合動詞「V+合う」が単文内に共起する例をもとに、現代日本語における「V+合う」形式の統語構造を提案する。具体的には、現代日本語の「V+合う」には、「合う」がその補部にVP を選択する構造と、vP を選択する構造の二種類が存在することを示す(cf. Kosuge (2014))。
       次に、本発表では、「V+合う」複合語の統語構造の通時的発達について議論を行う。ここでは、日本語歴史コーパスを用い、「V+合う」形式に生じる「お互い」の格標示の通時的変化について、次の事実を明らかにする。すなわち、現代語において「V+合う」の文中生じる「お互い」は、与格・対格どちらでも標示可能であるが、通時的にみると、17世紀頃に与格標示の用法が確立した後、1920年代頃に対格標示の用法が可能になったのである。
       この観察をもとに、本発表では、「V+合う」は、元々VP を補部に選択していたが、統語的構文化(Ogawa (2014)) の結果、vP 補部構造が可能となり、機能範疇v により、「お互い」の対格の照合が可能となったということを主張する。

  • Session 5: 14:30〜15:15

    新国佳祐・和田裕一・小川芳樹(東北大学大学院情報科学研究科)
    「ガ-ノ交替の容認性を規定する諸要因―Web質問調査に基づく世代間比較―」

    •  本研究では,ガ-ノ交替による文の容認性の変動を規定する要因について,1) 容認性評定者の年齢,2) 従属節述部の意味的種類,3) 副詞が介在する位置という三つの側面から実証的に検討した。Webを用いた質問調査により,20歳代(100名),40歳代(100名),65〜74歳(100名)の各年齢群に属する対象者に対して,ガ-ノ交替を含む関係節構文の容認性について評定させた。調査1では,従属節がi) 形容詞述語文,ii) 状態動詞述語文,iii) 結果の持続を表す動詞述語文,iv) 習慣・反復を表す動詞述語文,v) 一回限りの出来事を表す動詞述語文,vi)コピュラ文である各刺激文について,それぞれ従属節主部をガ主語/ノ主語とする条件で提示した。調査2では,従属節内に生起する副詞(文副詞または様態副詞)の位置を操作し,副詞-主語-述語語順条件および主語-副詞-述語語順条件の各条件下で刺激文を提示した。
       コーパス分析を行った先行研究(e.g., 小川, 2016; 南部, 2014)においては,ガ-ノ交替の生起する頻度には顕著な通時的変化が見られることが示されている。また,Harada(1971)は,ガ-ノ交替への容認性のばらつきが文法の通時的変化に起因する可能性を主張している。本発表では,ガ-ノ交替の容認性に関する世代間差が,上記のような産出頻度の通時的変化と対応して生じているか否かについて具体的な調査データに基づいて議論し,言語変化の統語論的研究における心理言語学的方法論の適用可能性を模索する。

問い合わせ先: 小川芳樹 @