ワークショッププログラム15
東北大学大学院情報科学研究科「言語変化・変異研究ユニット」主催
第15回ワークショップ
2026年3月26日(木)~ 3月27日(金)
会場:情報科学研究科棟2階中講義室 & Google Meetによるオンライン会議形式(会議資料およびオンライン参加用URLは参加申し込みされた方に配布)
参加申し込みは、こちらからお願いします。なお、メールアドレス入力欄には、G-mailアドレスを入力してください。
3月26日(木)
-
挨拶:小川芳樹(東北大学):13:00〜13:05
-
Session 1:13:05〜13:55 (発表35分のあと質疑応答15分)
山田彬尭(慶應義塾大学)
「日本語とベンガル語の語彙的な『ような』受け身」
-
本発表では、(1)に見られる一連の構文についての初期段階の分析を示す。日本語では、「世話/厄介/ごちそう」などいくつかの名詞が「なる」と生起することで、形の上では能動文であるにもかかわらず、受け身の意味が現れる。例えば、(1)a/cは(2)c/dと同じ意味で解釈される:
(1) a. 私が 先生の お世話に なる。
b.* 私が 先生を お世話に なる。
c. 私が 先生に お世話に なる。
d.* 私が 先生によって お世話に なる。
(2) a.* 私が 先生の お世話 される。
b.* 私が 先生を お世話 される。
c. 私が 先生に お世話 される。
d. 私が 先生によって お世話 される。
これは、見かけ上、下記の尊敬語構文と発音上よく似ている一方で、尊敬対象が非主語になる点や「ノ格」との交替を許すなど、統語上大きな違いを見せる。
(3) a.* 先生が あの人の ご覧に なる。
b. 先生が あの人を ご覧に なる。
c.* 先生が あの人に お覧に なる。
d.* 先生が あの人によって お覧に なる。
(1)の構文は、日本語においては一見周辺的に見える構文だが、(i) 名詞化された述語が、(ii) 語彙的な能格述語を伴い、(iii)動作主性が背景化された意味を表すという点で、ベンガル語にも類似した用例が観察される。ベンガル語では明確なA移動の所見が見られること、「御(お)」の明確な一致が存在することから、しかし、(1)dに見られるように「によって」と共起できないことから、(1)a/cは一種のanticausativeであるという分析を提示する。
-
-
Session 2: 14:00〜14:50(同上)
鈴木亨 (山形大学)
「無生物主語を伴う動詞walkの構文ネットワーク分析」
-
本発表では、無生物主語を伴う動詞walkの複数の用法を構文ネットワークの観点から分析し、関連する表現の構文化の可能性について検討する。英語の動詞walkは、「脚を交互に動かして移動する」という中核的な意味規定により、その主語が人間あるいは動物類などの有生主語に限定されるという一般的な傾向がある。しかしその一方で、現代英語のコーパスやインターネットの調査では、無生物の具体物(モノ)や抽象物(情報、作品、組織など)を主語とする「比喩的」な用例にも、一般的な辞書の記述を越えたかなりの拡がりが見られる。特に興味深いのは、それぞれの主語のタイプによってwalkを中心とする動詞句の意味解釈に違いがある点である。本発表では主に自動詞用法を扱うが、具体物が主語となる場合には、意図せざるモノの遺失・紛失や人によるモノの使用を表す事例など、抽象物が主語となる場合には、想定外の普及や拡散などを表す事例などが含まれる。その中でもとりわけ多く観察される'grow legs and walk'のコロケーションで用いられる事例を中心に、コロケーションによる新たな意味の獲得と構文化の関係について考察したい。
-
-
Session 3: 14:55〜15:45(同上)
堀内ふみ野 (日本女子大学)
「レジスターに依拠した複数標識 [-たち] の文法的・機能的ゆらぎ」
-
接尾辞 [-たち] は、一般に、「子どもたち」「生徒たち」のように有生物を表す名詞や代名詞に後続し、複数の意味を加える。しかし、ソーシャルメディア上では、形容詞や動詞に [-たち] が後続する用法も見られる(e.g.「おいしいたち」「作ったたち」)。本発表では、こうした特定のレジスターでのみ見られる [-たち] の用法について、実例の観察結果をもとに、[-たち] の前項の分布や [X-たち] 構造が生起する構文環境、共起要素の特徴などを整理する。その上で、[-たち] が複数を表す文法標識としての機能を保持しつつも、前項との結合度が低い文末詞的な振る舞いを見せること、それに伴い評価や愛着を示すスタンスマーカーとしての機能も担いつつあることを論じる。さらに、こうした機能的な拡張が起こった動機づけを、ソーシャルメディアというレジスターの特徴(共有性の重視、写真等の視覚的要素を伴うコミュニケーション頻度の高さなど)との関わりから考察し、現在進行形の言語変化の一端を捉えることを目指す。
-
-
Session 4: 15:50~16:40(同上)
岳昱澎 (Yue Yupeng)・小川芳樹・和田裕一(東北大学)
「中国語の・日本語・英語における所有者繰り上げと逆行束縛:
統語論的説明と大規模調査による検証」-
英語・日本語・中国語の心理動詞を含む使役構文では、照応形が、表面上はそれをc統御しない名詞句を先行詞に取れるだけでなく、典型的な順行束縛の容認性が低下する場合がある。
(1) a. Each otheri’s supporters worried [Freud and Jung]i. (Pesetsky (1995))
b.?*John bothers himself. (Lee (2001))
(2) 自分iに関する記事が太郎iを悩ませた。 (cf. Akatsuka (1976))
(3) Zijii de fumu de zhichi gan-dong-le meige cansaizhei.
self DE parents DE support touch-Perf every contestant
‘The support of selfi’s parents touched every contestanti.’
(Cheung and Larson (2015))
また、日本語の「自分」や中国語のzijiは通常、主語名詞句によって束縛されなければならないが、使役構文における「自分」、zijiの先行詞は主語でなくてもよい。これらの構文の特殊性は、束縛条件のいかなる定式化にとっても問題であり、束縛原理を統語論の原理として維持する上での問題となってきた (Wang and Pan (2021))。 本発表では、まず、非主語位置にある所有者項が主語名詞句内の再帰代名詞の先行詞になれる構文として以下の4つを提示した上で、これらについて、LF部門でのもう1つの主語位置[Spec, FinP]への所有者繰り上げに基づく逆行束縛現象の統語的説明を提案する (cf. Ogawa and Nawata (2025))。また、4構文のうちの1つ、中国語の生理動詞構文 (= (7))について、順行束縛と逆行束縛の容認性を大規模調査した結果に基づき、逆行束縛現象の心理的実在について論じる。
(4) a. These nasty stories about himselfi broke Johni’s resistance.
b. These rumors about himselfi caught Johni’s attention. (Landau (2010: 73))
(5) a. 自分の自由になる時間が太郎に増えた。
b.?*自分の払う税金が太郎に増えた。
(6) a.* 自分の車がメアリーの所有だった。 (Kishimoto (2014: 236))
b. 自分の車がメアリーの所有ではなかった。
c. 自分の車だけがメアリーの唯一の所有物だった。
(7) a.(??)Bǎoyùi hē-zuì-le zìjǐi niàng de jiǔ.
Baoyu drink-drunk-Perf self brew DE rice.wine
‘The rice wine that he himself brewed caused Baoyu to get drunk.’
b. Zìjǐi niàng de jiǔ hē-zuì-le Bǎoyùi.
self brew DE rice.wine drink-drunk-Perf Baoyu
‘The rice wine that he himself brewed caused Baoyu to get drunk.’
References:
Akatsuka McCawley, N. (1976) “Reflexivization: A Transformational Approach,” Japanese Generative Grammar (Syntax and Semantics, Vol. 5), ed. by M. Shibatani, 51-116, Academic Press, New York.
Cheung, C.-H. C. and R. K. Larson (2015) “Psych verbs in English and Mandarin,” Natural Language and Linguistic Theory 33, 127–189.
Kishimoto, H. (2014) “Dative/Genitive subjects in Japanese: A comparative perspective,” Japanese Syntax in Comparative Perspective, ed. by M. Saito, 228–274. New York: Oxford University Press.
Landau, I. (2010) The Locative Syntax of Experiencers. Cambridge, MA: The MIT Press.
Lee, H. (2001) “Backward Anaphora,” Proceedings of the 16th Pacific Asia Conference on Language, Information and Computation 281–289.
Ogawa, Y. and H. Nawata (2025) “Historical Development of the Dative Subject Construction in Japanese as Individual-level Possessive Construction with FinP-Subject,” Theories of Morphological Case and Topic/Focus: Synchronic Variation and Diachronic Change in Japanese and Beyond, ed. by Y. Ogawa, 105-139, Palgrave MacMillan, Cham.
Pesetsky, D. (1995) Zero syntax: Experiencers and Cascades. Cambridge: MIT Press.
Wang, Y. and H. Pan (2021) “Chinese Reflexives,” Oxford Research Encyclopedia of Linguistics, ed. by M. Aronoff, 1-27, Oxford: Oxford University Press.
-
-
Session 5: 16:45~17:35(同上)
柯怡廷 (Ko Yiting)・髙橋康徳(神戸大学)
「台湾における日本語由来の「専門借用語」の音調」
-
台湾は日清戦争後から第二次世界大戦の終結までの50年間(1895〜1945年)日本の植民地であった。日本統治時代は同化政策の一環として日本語が「国語」として公教育で教えられ、日常生活においても日本語が広く使われた。そのため、現代においても台湾の言語(特に台湾語)の中には多くの借用語が残る。 台湾における日本語借用語の先行研究は日常的に使われる生活用語を対象としたものが大半であるが、筆者らは生活用語以外に特定の職域の従事者間だけで使われる専門用語の中にも日本語借用語が多く残っていることを発見した。
本発表では、それらの「専門借用語」の音調について考察する。日常的な借用語の音調はHsieh (2006)が規則的なテンプレートを作成することに成功したが、筆者らが記述した土木建築業界の専門借用語では従事者によって多様な音調が出現し、Hsieh (2006)のテンプレートでは対処できないことが判明した。
Hsieh (2006)のテンプレートがうまく機能しない原因として、筆者らは以下のような仮説を提案する。台湾語話者の間に広く普及する生活借用語に対して、専門借用語は関連業界の従事者だけしか使用しないため言語の形式(音形・音調)と意味の双方で揺れが大きい。このような不安定性を伴う借用語はシンプルな予測を出力する規則的な分析では捉えることが難しい性質を有している。
参考文献
Hsieh, Feng-fan (2006) High Infidelity: The Non-Mapping of Japanese Accent onto Taiwanese Tone. In: F. Hsieh and M. Kenstowicz (eds.) Studies in Loanword Phonology(MIT Working Papers in Linguistics 52), 1-27, MIT, Cambridge, MA. .
-
-
Session 6: 17:40〜18:30(同上)
遠藤喜雄 (神田外語大学)
「情動の統語構造:カートグラフィーから見る周辺部とスタンスの階層性」
-
本発表は、情動(emotion)が関与する文法現象を、統語カートグラフィーの枠組みに基づいて検討することを目的とする。特に、情動的意味が節の周辺領域にどのように構造化されているのかを理論的・通言語的観点から考察する。まず、Endo (forthcoming1) で提案された aggression scale と生成文法で蓄積されてきた知見を手がかりに、Endo (forthcoming2) が報告する人間とAIにおける文法性判断の差異を再検討する。次に、Endo (forthcoming3) に基づき、低位周辺部における強調フォーカスと間(pause)の関係を分析する。特に、間が情動の強度を指標化する韻律的手段として機能し、それが特定の周辺部投射の活性化と対応する可能性を論じる。さらに、英語の demonstrative protag 構文(That looks very very impressive, that; Mycock and Glaas 2025)と、日本語の「うまいんだな、これがまた」のような構文を比較する。
参考文献
Endo, Y. forthcoming1. Strength of tone in cartography. Oxford Handbook of Syntactic Cartography. OUP.
Endo, Y. forthcoming2. Bi-Peripheral cartography of discourse. Proceedings of the International Workshop of Syntactic Cartography, The Chinese University of Hong Kong.
Endo, Y. forthcoming3. Two types of focus in the low clausal periphery. In Typology of focus. John Benjamins.
Mycock, L. and Glaas, S. 2025. “‘Tis goodly language this, what would it mean?:In Non-canonical English Syntax. CUP.
-
-
3月27日(金)
Session 7: 10:00〜10:50(発表35分のあと質疑応答15分)
宮川創(筑波大学)
「コプト語リュコポリス方言における語順変異と示差的主語標示」
-
本研究は、カウ写本(4世紀)のリュコポリス方言コプト語『ヨハネ福音書』を対象に、語順と主語標示を定量的に分析する。顕在的な主語名詞を含む316節の調査から、TAM-主語-動詞型が165例(52%)、TAM-人称接頭辞-動詞-主格標識-主語型(表層VOS)が151例(48%)と、両語順がほぼ等頻度で共存することを明らかにした。この分布は、古代エジプト語史において、初期コプト語がアフロ・アジア語族では珍しく、VSO→SVO→VOS変化の過渡的段階にあることを示している可能性がある。後者に義務的に現れる主格標識 či- は従来「反主題」標識と解釈されたことがあった。本研究ではデータに基づきその問題点を指摘し、動詞後位置の中核項にのみ格標示が義務化される位置条件型の示差的主語標示として再分析する。この体系は北東アフリカの「動詞前無格標示」型とも整合する。本研究の意義は、(1) VSO→SVO→VOS変化の記述、(2) 位置条件型示差的標示体系の類型論的位置づけ、(3) 等確率的語順分布における「基本語順」概念の再検討にある。
参考文献:
Allen, James P. 2013. The ancient Egyptian language: An historical study. Cambridge: Cambridge University Press.
Grossman, Eitan. 2013. A rare case of differential marking on A/S: The case of Coptic. Paper presented at ALT 10, Leipzig.
Grossman, Eitan. 2014. No case before the verb in Coptic. In Grossman, Haspelmath and Richter (eds.), Egyptian-Coptic linguistics in typological perspective, 203–225. Berlin: De Gruyter Mouton.
König, Christa. 2008. Case in Africa. Oxford: Oxford University Press.
König, Christa. 2009. Marked nominatives. In Malchukov and Spencer (eds.), The Oxford handbook of case, 534–548. Oxford: Oxford University Press.
Loprieno, Antonio. 2000. From VSO to SVO? Word order and rear extraposition in Coptic. In Sornicola et al. (eds.), Stability, variation and change of word-order patterns over time, 23–39. Amsterdam: John Benjamins.
Thompson, Herbert. 1924. The Gospel of St. John according to the earliest Coptic manuscript. London: British School of Archaeology in Egypt.
-
-
Session 8: 10:55〜11:45(同上)
柴﨑礼士郎(明治大学)
「語用論標識for all/aught I knowの歴史的変遷について」
-
本発表では語用論標識for all/aught I knowの歴史的変遷の考察結果を報告する。複数の語からなる節レベルの語用論標識であることから用例数も相対的に少なく、最も多く使用された時期が18世紀半ばから19世紀半ばと判断できるため、データ観察には当該時期を含むコーパスを複数用いる。for all/aught I knowの根源構文for aught I wootは僅かながら中英語期に記録が残っており、初期近代英語期以降にfor all/aught I knowは本格的に発達する。現代英語に至る頃からfor all I knowへの慣習化がはじまり、話者の弱い憶測(‘conceivably’)を表すようになる。歴史的には書きことばへの偏重が確認できる一方、必ずしも形式的な固定化が進むわけではなかった。述部の多様化(e.g. for all/aught I can see)、過去時制の微増傾向(knew)、他の語用論標識との共起(e.g. I mean, possibly, maybe)などが確認できることから構文の多様化も窺い知ることができる。本発表では、for all/aught I knowの形式変化だけではなく、意味、音韻、対人関係などの点も加味し、関連構文へも言及しながら、歴史的変遷を多角的に読み解く。
-
-
Session 9: 12:50〜13:40(同上)
佐藤陽介(津田塾大学)
「省略現象から見える「遊び」と「甘え」:
侵略的インターフェイス理論の構築に向けて」-
文法的に逸脱した構造が、スルーシングや項省略といった「省略」を伴う場合にのみ許容される現象は、長年言語学の謎とされてきました。この現象は、あたかも発音という「人の目」がない状況下では、通常は禁じられている構造的逸脱(=遊び)が、例外的に許容(=甘え)される心理的力学に似ています。本発表では、この「遊び」がなぜ省略環境でのみ「甘え」として成立するのかという問いに対し、統語・音韻インターフェイスの観点からアプローチします。具体的には、極小主義プログラムの枠組みにおいて、文法性の決定要因を統語計算そのものではなく、統語・音韻インターフェイス側に再定式化することを試みます。これにより、従来統語上の「異変」と想定されていた数々の違反が音韻部門との調整操作で「修復(Repair)」されるプロセスを明らかにし、音韻部門が統語派生を事後的に規定する「侵略的インターフェイス」(Invasive Interface)であるという新たな言語モデルを提示します。
参考文献:
Mendez, Gesoel. 2020. Investigations on salvation and non-salvation by deletion. Doctoral dissertation, University of Maryland, College Park.
Mendes, and Kandybowicz. 2023. Salvation by deletion in Nupe. Linguistic Inquiry 54:299–325.
Merchant, Jason. 2001. The syntax of silence: Sluicing, islands, and the theory of ellipsis. Oxford: Oxford University Press.
Saito, Mamoru. 2007. Notes on east Asian argument ellipsis. Language Research 43:203–227.
Sato, Yosuke. 2010. Minimalist interfaces: Evidence from Indonesian and Javanese. Amsterdam/Philadelphia: John Benjamins.
Sato, Yosuke. 2011. P-stranding under sluicing and repair by ellipsis: Why is Indonesian (not) special? Journal of East Asian Linguistics 20:339–382.
-
-
Session 10: 13:55〜14:45(同上)
新谷真由(芝浦工業大学)
「工学系学生の国際的志向性を規定する変数間の構造的接続性:
英語習熟度を介した三層モデルの検討」-
本研究は、工学系学生を対象に、汎用的基盤スキル(認知・非認知)、英語習熟度(受容・産出)、および国際的志向性(International Posture: IP)の三層構造における統計的関連性を検討するものである。相関分析、部分相関分析、重回帰分析の結果、英語習熟度層が基盤的能力と心理的志向性を媒介する「構造的ハブ」として機能していることが示された。IPの二次元(国際的関心志向・国際的行動志向)のうち、国際的関心志向は受容・産出両スキルの習得と独立して関連していた。一方、国際的行動志向は受容スキルと正の相関を示す一方で、汎用的基盤スキルのうち認知スキル(言語・情報処理能力)とは負の相関を示した。これは、比較的高い分析能力・処理能力を持つ学生が、不確実な国際環境への予見やリスク評価に対して慎重さを生む可能性を示唆している。本研究の知見は、従来の第二言語習得(SLA)研究において英語学習への動機づけに対する先行変数とされてきたIPが、専門領域固有の教育文脈においては、英語使用を通じた成功体験の積み重ねによって事後的に構築される「教育的帰結」としての性質を持つ可能性を示している。また、英語学習の文脈を離れた汎用的基盤スキルが英語産出能力の有意な予測因子となる点は、それらのスキルが日常的な学習姿勢や他者との関わりの中で涵養されることを示唆しており、初年次教育や英語教育を統合したカリキュラム設計の重要性について重要な示唆を与えるものである。
-
-
Session 11: 14:50〜15:40(同上)
下地理則(九州大学)
「話者の内省を引き出しにくい形式をどう記述すべきか:
宮古語のフィラーを情報理論から分析する試論」-
南琉球宮古語伊良部島方言の自然談話データに出現する3つの「フィラーっぽい」形式群(mmja・unu・naugara)は、表面的には似た分布を示すが、母語話者からの内省判断の引き出しが困難であるため、従来の記述言語学的手法では機能の違いを検証できなかった。本研究では、発表者が作成した形態素解析済みの談話コーパス(774発話・4,746語)に対し、圧縮シャッフル検定とサプライザル分析という2つの情報理論的手法を適用し、内省に頼らずにこれらの形式の差異を検出することを試みた。文内の絶対位置(出現位置の分布)や相対位置(前後の品詞共起)については、3形式の間に有意な差は見出されず、分布の見た目が似ているという直感は裏付けられた。一方、サプライザル分析により、後続語の情報密度において3形式は明確に異なることが判明した。mmjaの直後には予測困難な語が出現し(post S̄=6.69 bits, d=0.99)、節境界で新情報を予告する談話標識として機能する。unuは名詞句の語彙検索ポーズ(d=0.46)、naugaraは情報密度と無関係な引き延ばし(d=−0.14)と位置づけられる。
-
-
挨拶:小川芳樹(東北大学)15:40〜15:45
問い合わせ先: 小川芳樹 @